−1− 夜明けが、来た。 東の果てから幻想郷を照らす太陽の光は、いつもと何ら変わりなく見えた。 それは普段よりほんの少しだけ暖かく、いつもより世界はほんの少しだけゆっくりと動い ていた。 博麗神社の巫女、博麗霊夢は……まだ寝ていた。 のどかな一日。のんきな日の出。彼女の眠りを妨げるものなど、何一つ無かった。 強いて言えば異変を察知した暇な妖怪か、同じく暇な人間くらいだろうが、一番この手の 異変に敏感な境界の妖怪──八雲紫(やくもゆかり)は疑うまでも無く彼女よりずっと深 い眠りの中に居るだろう。 そう、幻想郷には異変が起きていた。 突然、現れた珍妙な建物。奇怪な生物。 おおよそこの世界の法則には似つかわしくない、魑魅魍魎たち。 森は、湖は、大混乱に陥っていた。 妖精たちは自分たちの力で太刀打ちできないことを悟り、強い妖怪たちを呼びに行った。 しかし妖精が騒がしいのはいつものことである。 ある者は無視を決め込み、ある者は怒鳴り散らして一蹴し、 妖精たちの訴えはとうとう届かなかった。 それでも哀れな彼女たちは口々に叫ぶ。 「別の世界が攻めてきた」、と。 −2− 妖怪の山。 天狗や河童や鬼や神様がドンチャン騒ぎを起こす華やかな場所から大分離れた、 樹海の奥底にひっそりと彼女らは暮らしている。 はぐれ記者、きめぇ丸は書いた記事を躊躇せずゴミ箱に放り込むと、 その部下のはたて丸の話を頷きながら聞いた。 きめぇ丸「おお、こわいこわい」 はたて丸「ふざけないで聞いてくださいよ。本当のことなんです」 きめぇ丸はふざけた顔をしているが、 それは生まれつきのもので別にふざけているわけではない。 きめぇ丸「知っている、知っている。 もっとも、人間や妖怪たちは未来永劫、気付くことはなかろうがな」 はたて丸「気付かない?」 きめぇ丸「もうすぐ異変は終わる。 全てはすでに決まっていることなのだ」 はたて丸はさっぱり理解できないといった様子でふざけた顔の上司を見る。 きめぇ丸は愛用のカメラを持ちカーテンの隙間から幻想郷の様子を眺めた。 きめぇ丸「さあ、ゆこうゆこう。 撮り逃せば次の代に叱られることになる」 はたて丸「???」 扉を勢い良く開けて、きめぇ丸が飛び立つ。 慌ててはたて丸はそれを追った。 そう、全ては予定調和なのだ。 例え、一歩外れれば世界が滅ぶとしても。 −E− 彼の地を去る時、 人は故郷を胸に宿す。 時に忘却の彼方 しかし誰もが持つ、故郷。 そこに──『彼女』は居た。 確かに『彼女』はそこに居た。 |